箸のはなし

いわゆる箸の役割、食べ物、そして橋との関係も

ハシは「橋」である。 食物と口を結ぶかけ橋である。 橋は仲介・媒介するもの。 ハシは「間(はし)」である。 二本の箸の間に食物をはさみ、食物と口の間を結ぶ もの。 神と人との間を結ぶもの。 ハシは「端」である。 竹または木の中程を折り曲げて、その端と端を向かい合わせに して(ピンセットのように)食をとった。 ハシは「柱」である。 箸は、これを使う神や人の霊魂の宿るものであるから、箸は柱 といえる。まさに神霊や祖霊が宿る小さな柱であり、小さな神木である。枕飯の箸や 御魂の飯の箸を見ると、ハシがハシラであることがうかがえる。 手食は昔から人間本来の食べ方 右手の三本指(親指、人差指、中指)で食べ物をつかみ口にいれる。 食指が動く:食指とは人差指のこと 中国のご飯の食べ方は、最初は手、前漢から元代のでが匙、それ以降が箸ということになる。 元までは、ご飯、菜類、汁類に匙を使い、箸は羹(汁物)の実を挟むとき使った。 明代から箸が主になっていったのは、粘りのある米飯を主に食べるようになってから 韓国の食べ方は「匙主箸従」という漢時代の食べ方をそのまま伝えている。 ご飯は匙ですくって食べ、汁も匙ですくって飲み、匙が食事の主役である。 日本の食べ方は、箸中心。汁類は椀に直接口をつける。王朝時代は箸と匙を併用 。鎌倉以後は箸のみ。明治以後に鍋物が発達し匙使用。 アジアの日本料理、中国料理、朝鮮料理は、調理段階であらかじめ箸で食べやすい ように料理する。食膳に出されると箸ではさんで食べるだけで、箸中心に調理された 完成料理。 西洋料理はナイフ・フォークを使い、食卓で肉を切って刺して食べる未完成料理。 宮中の新嘗祭の悠紀大御饌ではピンセット型の竹折箸が使われる 三世紀頃誕生 伊勢神宮の由貴大御饌には桧の二本箸が使われる 五世紀頃誕生 弥生末期の三世紀ころ、ハレの神事儀礼のなかで、手づかみによるけがれが 触れないように、神饌を清浄な姿で神に供え、神と共食するための、あるいは神饌と ともに神に供える聖なる祭器として誕生した。 箸が神事儀礼に使われるのは、その神饌が神火を津押して調理した塾饌(おもに蒸米) が供えられる大切なハレの神祭りにかぎられる。火を通すことは、単に調理するという だけではなく、火のもつ浄化力で神饌を清浄にし、神聖性をうるといった大きな意義を もっていた。日常の神饌は、火を通さない生饌(おもに洗米、野菜、魚貝)などが用い られ、箸は用いられない。 本田總一郎:橋の本、日本実業出版社