土と基礎のはなし

土と基礎  土とはどういうものか   「土の起源」水の入ったコップに土を入れると底に土粒子がたまる。   土粒子は火山の噴出物か岩石の風化生成物である。風化:地表の岩石が細片化したり化学的に変化すること   礫(径75〜2mm)、砂(2〜0.075mm)、シルト(0.075〜0.005mm)、粘土粒子(0.005mm以下)   「土の構成」土は土粒子の接触集合体、土の骨格とその間隙、土粒子は接触部での摩擦抵抗で拘束、   骨格に力が加わり粒子間摩擦が切れ粒子と粒子の相対変位(土の変形)   「土の重さ」単位重量γ(単位体積あたりの重量)、粘土のγ1.5〜1.7g重/cm3(t重/m3)、   砂のγ1.3〜2.1g重/cm3(t重/m3)  建設材料としての土   「土の使われ方」下水道工事で掘削された溝や擁壁の裏側(戻し土、一般に砂)   新幹線や高速道路の盛土(交通荷重を支える)、堤防やアースダムの盛土(水密、水圧)   「土の締固め」間隙空気を追い出し、土粒子の接触を多くするよう、土に力を加える。   締固めローラー、砂礫土に有効、粘土には向かない。粘土質の土は盛土に不適。   「土の脱水」砂礫埋立て層には振動締固め、粘土層は土粒子が電気的に結合しているから   地表面に広く盛土し荷重でゆっくり脱水(圧密)、バーチカル・ドレーンで圧密促進   「補強土と軽量化土」引っ張りに抵抗できない土に帯・シート・ネット等敷く。   排水性の材料ならより安定する。盛土構造物の重量が在来地盤に圧密させる。この対策に   軽量材料(発泡スチロールのビーズ混合)使用。  構造物を支える基礎   「基礎とは何か」構造物の自重と荷重を、支持層まで伝達する構造体を基礎という。   「基礎の種類」直接基礎、杭基礎、ケーソン基礎。   「荷重を支え得るのは何故か」破壊面での土のすべり抵抗   「安全率の考え方」例:算定された最大荷重の1/3の荷重が加わるとする。   許容沈下量を満足する荷重を設計荷重とする。 地下空間の利用  上下水道・ガス管・トンネル・地下空間の発電所  開削による地下空間の創造   「開削に伴う地盤の変形と土圧」地表面から地盤を掘削し空間に構造物を建造し   埋め戻すのが開削工法。端部を斜面にすれば安定するが、効率よく開削するため   掘削端部は垂直壁で囲う。地盤にあらかじめ鉛直壁を打設して掘削する場合も   主働土圧と受働土圧のバランスが必要。安定させるため土留め壁必要。   「土留め壁の設置」親杭・横矢板工法、シートパイル工法、地中連続壁工法   「土留め壁の支持」壁体自体の強度を高く、受働抵抗が十分期待できるよう根入   を長くする必要があり不経済。土留め壁の変形を阻止するための腹起しに切梁   をあてがい、切梁の座屈を防ぐよう途中で鉛直柱を打設して、これと切梁を剛結   する(切梁・架構工法)。背面地山に定着したアンカー棒の引張り強度で土留め   壁を支持する(グランドアンカー工法)。地山に削孔しアンカー棒を挿入して   定着部にセメントモルタルを注入する。   「情報化施工」土留め壁と支持構造物は土圧に抵抗するので、土圧の大きさを   知ることが大切。種々の条件で変わる土圧や切梁反力やアンカー張力などの数値   を計測し、場合によっては設計変更する(情報化施工)。  トンネル空間の創造   「トンネル掘削と地山のゆるみ」自然状態では安定している地山が、トンネルを   掘削するとその部分の圧力がなくなるので、周辺の地山が変形する。崩壊に至る。   崩壊を防ぐため、掘削前面(切羽)の大変形防止とトンネル内空壁面の大変形   防止の2つの検討が必要。切羽が安定し自立する堅固な地山には山岳工法。   切羽が崩壊する軟弱に地山にはシールドマシーンを使うシールド工法。   「山岳トンネル」切羽が安定して自立する場合の山岳工法、地山のゆるみを   抑える2つの方法、在来工法、NATM工法。在来工法は開削における親杭・横   矢板と同じ考え方、アーチ状鋼材を組み立て、それと掘削壁面の間に板材を入れ   地山の土圧を板材で受けそれを鋼アーチで支持する。アーチ鋼材と板材を支保工   という。NATM工法は地山がもつ最大強度が発揮できる変形を許し、その変形   を固定させながら地山の強度を活用する。地山にロックボルトを打ち込む。内壁   面に吹き付けコンクリートを打つ。周辺地山と一体化した殻膜形成。   「シールド工法」切羽の自立しにくい地山掘削のため開発されたシールドマシン   切羽とシールドマシン前面との間を泥水で満たし切羽の安定を保ち掘削泥水を   ポンプで圧送してトンネル外に排出させる。掘削された壁面空間を保つため   既製のコンクリートパネルを坑内で組み立て支保用セグメントとして、セグメ   ント外面と掘削壁面の間に裏込セメントを注入する。    大深度地下空間の創造   大深度地下空間の創造と利用の3つの理由。大都市の地表も浅い地中も利用され   尽くして、大深度地下は土地価格の問題がない。大深度地下の地盤強度は高く、   地震動も地表にくらべ小さい。地中連続壁工法やNATM工法の進歩により、   地中掘削技術が大深度空間の創造を可能にしている。 地盤と災害  広域地盤沈下   「地盤沈下が起きるわけ」厚い粘土層の下に堆積している砂礫層から、大量地下水   を汲み上げると粘土層が圧縮される。砂礫層の間隙水圧が減るとその上下の層の   間隙水圧も減る。間隙水圧と土粒子がその上の重量を支えていて、間隙水圧の   減少分だけ土粒子の間が圧縮されて代わりの力を分担する。つまり間隙水圧の   減った分だけ土粒子が圧縮され沈下分だけ水を排除して力のバランスをとる。   「地盤沈下しやすい土地」砂や礫は土粒子が摩擦抵抗でしっかりと拘束しあい、   間隙も少ないから土粒子も移動しにくい。ゆえに砂礫層は地盤沈下しにくい。   粘土層は粘土粒子が薄板状で電気的に端・面結合するので、間隙が比較的多い。   粘土粒子の移動可能空間は多いから砂礫より圧縮性が高い。粘土層が厚いと沈下量   は大きい。粘土層からの脱水はゆっくりなので、地盤沈下はゆっくり起きる。   「地盤置換を防ぐ」地下水の過剰な汲み上げをしない。地下水位が回復しても   土粒子の相対変形は戻らないからいったん沈下した地表面は戻らない。   トンネル工事で地下水をぬいてしまうと周辺に地盤沈下が起きる。人災   掘削空間内に湧水させないこと。連続地下壁工法、薬液(液体凝固材)注入工法  降雨による斜面崩壊   斜面の重力的安定。すべり破壊に抵抗する力>斜面をすべらせようとする力   地震時の斜面崩壊、地震時の慣性力+くり返し変形による土の強度減少   斜面下部の切取り工事による斜面崩壊、斜面を支えた下部強度の消失   斜面崩壊の原因は種々の原因の複合。予測は困難   「斜面崩壊の種類」自然斜面と人工斜面。人工斜面(盛土斜面と切土斜面)は   性質を把握できるから安全管理しやすい。自然斜面はデータ不足。自然斜面   の崩壊原因は複雑。   地すべり・崩壊・土石流    地すべり、地盤内にすべり面、降雨の後に地盤が少しずつ下方移動。    斜面崩壊、地震や降雨で地山表層が流下。    土石流、沢筋に堆積していた土石が沢筋に沿い一気に流下。   「降雨が土を弱くする」、雨水浸透による斜面土重量の増加と土の強度低下。   土中の水の浸透により水圧が増加し、その結果土粒子に働く力が減少する。   つまり、土粒子間の摩擦抵抗力が減る。  地震による砂地盤の液状化   「液状化のメカニズム」1964新潟地震、地震で土粒子間がずれ結合が外れる。   土粒子はより安定した状態になろうとする。このとき間隙がすべて水で満たされ   ていると土粒子はばらばらになり水中に浮いた状態になる。そして液体状になる。   「液状化しやすい土地」電気結合している粘土では液状化は起きない。   礫層でも水がぬけ粒子が再び拘束しあうから液状化しない。砂やシルトでは   結合力がなく水のぬけが礫より悪いから水圧がすぐには消えず液状化しやすい。   地震による地盤の変形は地表面に近いほど大きい。地表面ほど液状化を起こし   やすい。   液状化しやすい土地    地表面近く砂礫層が厚く堆積    砂の締り具合がゆるい    地下水が高く地表面に近い。   「液状化に伴う諸現象」液状化した砂層の水圧が増加して、間隙水は圧力の低い   地表面に集中して間隙水は一挙に地上に噴出する。   「液状化させないために」地下水を低下させ砂層中の水をぬく。ゆる詰めの砂層   を密詰め状態に改良する。振動杭の貫入。増加する水圧を急速容易にぬく。   砕石の柱を地盤内に一定距離で鉛直に配置する。土粒子に結合力を与え骨格が   崩れぬようにする。地盤土にセメントを混合して地盤を固化させる。 中村英夫:土木工学 −社会資本の技術−、放送大学教材(1991.3)

土木屋 地質の歴史的流れはどうでもよく、建設に関係のある場所の物理的、力学的数値がほしい。 地質屋 どのようにしてその地層ができてきたか調べる。地質の物理的、力学的性質に関心が薄い。  地球の歴史の紙芝居がほしい。 動画像に興味のある地質屋vs静止画像の知りたい土木屋 あるフランスの土木地質技術者「ダムのアバット面からこちらは土木技術者に属し、 アバット面から向こうは地質技術者の分野である」 地球の歴史45億年前、化石に残る生物の出現6億年前、人類の出現200万年前、 遺跡文化5000年前、土木構造物の寿命100年 (百万年を1mとすると) 全長4500m 化石に残る生物出現600m 人類出現2m 遺跡5mm 土木構造物0.1mm 火成岩、堆積岩、変成岩 プレートテクトニクス ドイツのウェーゲナーの大陸移動説 ドイツ人地質学者ナウマン フォッサマグナ(新第三紀末) 第四紀(200万年前〜現在) 洪積世、沖積世(地盤沈下、地震災害) 活断層(過去200万年間に活動) 地盤種別 地盤の特性値  I種    TG < 0.2  (良好な洪積地盤か岩盤)  II種   0.2 ≦ TG < 0.6  III種   0.6 ≦ TG   (軟弱な沖積地盤) *沖積層でも締まった砂層、砂れき層、玉石層は洪積層として扱える。 なお TGは以下の式で計算する。   TG=4Σ(Hi/Vsi)   ここに     TG:地盤の特性値(s)     Hi:i番目の地層の厚さ(m)     Vsi:i番目の地層の平均せん断弾性波速度(m/s)     iは地表面から基盤面までn層に区分されるときのi番目の地層の番号    かつ N値からVsiを推定する簡略式は次の通り。      粘性土層の場合        Vsi=100Ni1/3 (1≦Ni≦25)      砂質土層の場合        Vsi=80Ni1/3 (1≦Ni≦50) 基盤:粘性土ではN値25以上、砂質土ではN値50以上なら せん断弾性波速度300m/s以上 そして N値が0のときは せん断弾性波速度50m/sとみなしてよい。 (道路橋示方書・同解説 V耐震設計編) >S波速度は、せん断波の弾性波速度そのものです。 >shearもしくはsecondaryです。 >300m/s は、いわゆる「ゆるい」地盤ではありません。 >「良好」かどうかも一概に言えませんが。 >400m/s以上であれば、N値でいえば50近くなります。 >ちなみに、2500m/s 程度で、ガチガチの岩石の速度となります。 >よわい岩石なら1000m/s 以下もあります。 Y先生 ありがとう。 土木学会編 新体系土木工学14 土木地質、技報堂出版(1988.6)

斜面崩壊の予測 比較的確実な方法は 地盤の伸縮量を継続的に測定してから、たとえば1時間の伸縮量を求め、 その値をもとに今から何日後の崩壊するか予想を立てる。 黄砂 中国北部からモンゴルにかけての砂漠地帯から砂塵の嵐が風に乗って日本列島にまで飛来する。 この細かいチリ埃はしかし、空中の水蒸気が冷やされ氷の結晶や水滴になるときの核として 必要なものである。日本列島の豊富な降水量は、このチリのおかげでもある。 生石灰:石灰岩を1000度以上で焼成したもの。 消石灰:生石灰に水を加え(発熱する)消化化学反応によりできる。 石灰利用の歴史 万里の長城、黄河の堤防、ローマのアッピア街道などで、石灰による土質安定処理 三和土(たたき):土、にがり、石灰 土に石灰を混ぜると、ポゾラン反応などで土粒子が結合して、土の強度と耐久性が改良。 (セメントやアスファルトを混ぜる土質安定処理では、まぜる材料の接着力を利用) 日本の多くある水を含んだ火山性粘土には、石灰による土質安定処理が有効。 生石灰から消石灰に変わるとき大量の水が吸収されるから。 土の安定性:土の強度が十分、地盤沈下しにくい 崖崩れ 地形は長時間の間に浸食、運搬、堆積というサイクルで形成される。 もともと平らだった土地が、川により浸食され崖が作られる。 大雨による崖崩れは自然現象としてあたりまえ。 山間部に山を削り道路を作ったり住宅地を造成するとき、崖崩れが増える。 風化岩盤の崖は、大雨で崩れやすい。 大雨により水量を増した川は、崖の下部の土を削り取り崖は自重を支えきれず崩れ落ちる。 風化した岩盤に多量の浸透水が入ると、その浸透水圧が斜面を滑らせようとする力となって すべりに対する抵抗力を上回るから。 雨量と浸透速度 土壌の種類により、雨量の多少により(集中豪雨か長雨か)浸透速度に違いがある。 関東大震災の教訓 山の手:土蔵やレンガ造りの建物の全壊 下町:木造家屋の倒壊が多い。 山の手:○○山、○○台、火山灰の積もった関東ロームなど。卓越周期0.25秒 土蔵と共振 下町:△△谷、歴史の浅い堆積層、軟弱地盤。卓越周期1.4秒 木造建築と共振 丹那トンネル 大断層(破砕帯)につきあたり、そこから大量の水と土砂が吹き出した。 温泉余土:熱水変質作用(温泉水が固い地層を柔らかい粘土に変える)による粘土。 温泉余土は水を吸って膨れる。 水を吸って膨れ上がる粘土 ベントナイト中のモンモリロナイト鉱物は、水とナトリウムイオンからできていて、 ナトリウムイオンは水と結びつく力が強いため、ベントナイトに水が加わると 堆積が増大する。 ベントナイトの利用 アースダムの亀裂に、ベントナイトを水でこねて押し込むと、ベントナイトが 亀裂の中で膨れ上がり、細かい間隙をうまく満たして、ダムの水漏れ防止となる。 水田の底にベントナイトをまいたり、水田の畦にベントナイトを水でこねてぬりつけて おくと、こうして膨れ上がった粘土層は、水田の水漏れを防ぐ。水田の水のたくわえ がよいと、保温効果があり、稲の生育によい。 土質工学会編 土のはなし、技報堂

造山帯の岩石:チャート
(斎藤靖二、国立科学博物館ニュース 第285号)

 ちょうど1960年代の末ごろは、すでに大陸移動説が古地磁気学によって劇的に
復活し、ついで海洋底の秘密が解きあかされて海洋底拡大説が証明され、
現代の地球観プレートテクトニクスが確立しつつあったころである。

古い時代にできたチャートが、より新しい時代の泥の中にまぎれこんでいるというわけ
である。

 チャートは移動する海洋プレートによって沈み込み帯すなわち造山帯にもちこまれ、
そして陸側に押しつけられて大陸地殻の一部になったと考えられる。

 このように付け加えられた地質体を、付加体という。大陸地殻がこのような作用で
成長していくという考えは、付加テクトニクスとよばれている。

 古くから日本列島の骨格をなすとされた秩父古生層は、放散虫化石などで年代を
決めてみると、実は古生層ではなかった。

チャートは三畳紀、まわりの泥岩はジュラ紀で、ほとんどが中生代の地層である。

新たな視点で見なおすと、秩父古生層と誤解していたものはジュラ紀の付加体であったのだ。

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