焼酎の話

【琉球泡盛】
戦後に米軍から住民のために泡盛を作れと言われた造酒屋の佐々本氏。
日米の戦いの場で命びろいをして首里城のある実家の酒屋に帰ったら何もない。
なんとか使えそうな蒸留機だけ発掘。米軍から米。砂糖、メリケン粉、チョレート
の廃棄処分品をもらったが、かんじんり麹菌がない。
困っていたら、灰土の中から燃え残りのニクブク(稲藁で編んだ茣蓙)を発見。
ニクブクの上に蒸米をひろげ、そこに黒麹をまぶして泡盛を作る。
だめでもともとと、ドラム缶で蒸した米を箱にとり、その上にニクブクの灰をふりかけて
翌日見たら、蒸米は黒色に変色していた。 生きていた黒麹菌。

タイのラオ・ロン(ラオ・カウ)は琉球泡盛とそっくり。
かつて琉球はシャム(タイ)と交易をしていた。
だから泡盛はタイから酒造りを習った作品。今も泡盛はタイ米を使う。
違うのは、タイのラオ・ロンは餅麹で、泡盛は黒麹である。
1671年将軍家綱のときから献上酒が「泡盛酒」に変わった。
当時の記録を見ると、それ以前は「焼酎」とか「焼酒」と記されている。
それでその頃から、タイの麹から琉球の黒麹に変わったのではないかと推察される。
もしかしたらタイ麹は死滅して、土地の黒麹が自然に代わりをつとめていったのではないだろうか。


【球磨焼酎】
焼酎の起源として有名な話
鹿児島県大口市太田の八幡神社の柱から発見された
1558年(桶狭間の戦いの前年)の落書き。
「せめて焼酎ぐらい飲ませてくれるかと思ったのに、1回もふるまってくれなかった」
けちな神社は後の世まで知られる。大工の恨みはこわい。
このとき焼酎はポピュラーだったと思われる。
しかし、芋焼酎ではなかった。サツマイモはまだ伝わっていないから。
当時は大口は相良氏の支配下にあった。そして相良氏の居城は人吉(球磨地方)
にあった。
相良氏は八代海あたりまで支配していたので、長崎と貿易していた。
朝鮮からの蒸留酒が長崎経由で人吉に伝わったと推定される。
球磨焼酎は米焼酎です。
球磨焼酎は高品質の醪(もろみ)どり。(清酒粕から蒸留した粕とり焼酎ではない)

人吉の本願寺系の人吉別院の門前通は
むかしは唐人町といった。
朝鮮からきた焼酎づくりの職人たちが住んでいたという言い伝えがある。
朝鮮の音楽は日本の音楽とは異なるそうである。
朝鮮のメロディーは三拍子。日本には三拍子のものはない。
例外が五木の子守歌で、この曲は朝鮮の人の作ったものではないかと
團伊玖磨も言っている。


【芋焼酎】
芋焼酎は 種子島から鹿児島に伝わった。
もともと
サツマイモは琉球から種子島に贈られ
種子島から鹿児島に伝わったもの。 甘藷伝

【麦焼酎とソバ焼酎】
いいちこ(麦焼酎)、二階堂(麦焼酎)
雲海(ソバ焼酎)、天照(ソバ焼酎)
さいきん爆発的に売れてきたのは
ピュアーにしたから。 くせがなく飲みやすい。
減圧式蒸留 イオン交換樹脂の精製装置
こうすると純アルコールに近くなる。
(透明ガラスみたいで不満を感じる人もいる)
メーカーによっては、イオン交換樹脂を通さないものもとっておき
最終的にブレンドするとか。

こういうピュアーな焼酎は古くなるとまずくなるらしい。
泡盛や芋焼酎は寝かせるとうまくなる。古酒の値段も高くなる。
減圧式蒸留ではない常圧式蒸留にこだわるメーカーは、
減圧式蒸留だと臭い成分をのぞくとき、大切な味の成分も失われる
ことを気にする。
常圧式蒸留で造られた泡盛や芋焼酎は、古酒になればなるほど
味の成分が熟成してまろやかとなる。


タイのラオ・ロンは中国の白酒の系統である。
つまりコーリャン酒。(あの臭いでたいていの日本人はへいこうする)
中国人留学生と強い白酒を飲む私は琉球泡盛が大好き。
よって、乙類の薩摩の芋焼酎も好きなのです。
タイのラオ・ロン→泡盛→芋焼酎
このほか 中国の白酒(コーリャン酒)→朝鮮系焼酎→球磨焼酎 もある。

タイの焼酎は中国からきたものではない。
逆に元(モンゴル 1279-1368)時代に、タイの焼酎が中国に伝わった。
その名も、阿里乞(アリキ)あるいは阿刺吉(アラキ)酒と中国文献にある。
インドネシアにも蒸留酒がある。
たぶん タイもインドネシアも、アラビアの蒸留酒の流れであろう。

ギリシア→アラビア→タイ→琉球→種子島→薩摩
 そしてタイ→中国→朝鮮→対馬、壱岐、長崎、熊本
が焼酎の伝来らしいです。

アリストテレス(BC384-322)のアイデアによる蒸留器アムビック
アラビア語では「アランビック」、日本に伝わると「らんびき」
錬金術師の使う蒸留器で、やがて蒸留酒も誕生。
1250年 錬金術師アルノー・ド・ヴィユヌーブ「ワインを蒸留すると
eau de vie 生命の水が得られる」→ブランデー、スピリッツ、ウィスキー
アラビア語アランビック(蒸留器)でつくられた蒸留酒アラック
レバノンのアラック、イラクのアラック
アラブ原産アラックが、インドネシア・ジャワ島のバタビア・アラック、
タイのラオ・ロン(ラオ・カウ)になったようだ。


【麹】
 一般的に酒は、原料のブドウ糖を酵母の作用で発酵させアルコールに変える。
しかし、米にはブドウ糖が含まれていないため、麹を使って米の成分をブドウ糖に変える。

【酒母(元)】
 酒母とは麹によって糖化した米の成分を、アルコール発酵させるための清酒酵母のこと。
その酒母に乳酸を加えることで雑菌の繁殖を抑える。

【もろみ(造り)】
 できあがった酒母に麹、蒸し米、水を加え、もろみが造られる。
このもろみがやがて原酒となる。 

【酒税法による分類】
焼酎 アルコール45度以下(連続式蒸留機によるものは36度未満)
 甲類 連続式蒸留機による焼酎
 乙類 甲類以外の焼酎 (穀類を原料とした焼酎、粕とり焼酎)
スピリッツ 60度の泡盛、ウォッカ
リキュール 糖類その他のエキス分が2パーセント以上含まれたもの

米→(麹)→ブドウ糖→(酵母)→アルコール

参考文献   稲垣真美:現代焼酎考(岩波新書321)