菌類研究の最近の話題と分類学の基礎教育
3.科博の菌類分類学講座について
この講座を企画した発端は、従来、わが国の
教育機関や研究機関に菌類の分類のあらましが
学べるような講義・実習がなかったことです。
私の卒業した大学には、40年程前のことですが、
週1時間、半年コースの菌学という講座があり
ました。その講義では、植物病学の専門家の赤
井重恭教授が、いくらかの実物液浸標本を教壇
で示しながら、菌類全分野の分類を一人で解説
されました。この大学にはとにもかくにもこの
講座があったことは、異色であったようです。
しかし、菌類全殺の分類群を詳しく知るには、
到底十分ではありませんでした。当時、国立科
学博物館には、菌類分類学の専門家の小林義雄
博士がおられ、菌類全般についての基礎的でか
つ本格的な分類学講座の必要を痛感し、不定期
ながら外国から来訪した菌類学者を含め、館外
の専門研究者を招いて菌類分類学講座をすでに
開催しておられました。当時の科博には菌類の
観察に必要な顕微鏡類も備わっておらず、業者
から借用しての講座でした。当館にはこのよう
な素地があハまた、大学や民間企業を含めた
研究所等の方々が喜んで講座を担当して下さっ
た御蔭で、現在の公開講座が可能になりました。
講師の先生方の大半は、本来は菌類の応用や生
態学の専門家ですが、日本だけでもすでに1万
7千種が報告され、いずれは3万種にも達しよ
うという菌類を分類する研究者はわが国にはあ
まりにも少なく、これらの方々が研究材料とし
ている菌類の同定を依頼できる分類学の専門家
は不在で、そのため、自ら分類同定せざるをえ
ない立場の研究者です。昭和63年度、当館の新
宿分館に研修研究館が設けられ、そこには講義
や実習のできる教室が設けられ、同時に受講者
用の実体顕微鏡と生物顕微鏡が備えられたこと
が、同年度からのこの公開講座の開催を可能に
しました。この講座に対する各界の関心は高く
今接も、社会的要請があるかぎり、開催してゆ
く必要があろうと、考えています。
なお、「菌類分類学講座」および平成5年度か
ら改称した「菌類の多様性と分類」講座の詳細
は、科博ホームページhttp://www.kahaku.go.
jpの中のhttp://reserch.kahaku.go.jp/botany/kinrui/index.html/
で紹介しております。
(植物研究部 土居祥兌)
(国立科学博物館ニュース 第375号 2000.6.20)