シルクロードの伝説

甘粛人民出版社編:絲路伝説 濱田英作訳、サイマル出版会

平成11(1999)年7月15日から10日間の
キルギス共和国および中国新疆ウイグル自治区の旅に参加することができました。
事前にこの本を薦められ読んでいったことは、旅行中もその後も大変参考になりました。
訳者の埼玉女子短大教授濱田英作先生から、ここで紹介する許可をいただきました。
シルクロードに関心のある方は、この本を読むことをお勧めします。

銀山道と水豆の話 シルクロードは、トルファン(吐魯番)を過ぎると、天山に沿って西に進んでいく。 天山のふもとに涸(か)れ谷がある(銀山道ともいう)が、これはトクスン(托克遜) とグムシュ(庫米什)のあいだの峡谷のことである。この峡谷の全長は二百余里 〔百キ口あまり〕、谷のなかはすさまじく暑くて乾燥し、水は一滴もなく、 旅ゆく人にとってはたいへんな難所だった。 昔、三蔵法師の一行が吐魯番で、鉄扇(てっせん)公主の芭蕉扇を借りて八百里の 火焔山の火を吹き消したので、そのあたりの草木はどんどん生い茂ることができる ようになった。 ところが、これは、八百里の火焔があるのをいいことにいばっていた火の神を怒らせる ことになった。扇の力で火を消されてしまったのは、三蔵法師の仕業だと知った火の神は、 このしかえしはかならずしてやると誓った。 そこで、一行がちょうど托克遜にさしかかったとき、火の神は自分の腰帯を解いて 二百里の涸れ谷に変え、三蔵師弟を渇き死にさせようとした。 だが、火焔山の土地神は、三蔵法師たちが火を消してくれた恩を忘れずに、 いつもひそかに一行を守っていたので、土地神は身につけていた数珠をはずすと、 水豆に変えた。親指ほどの水豆は、ぎっしりと粒が連なり、喉の渇きをいやすには うってつけだった。暑くて困っていた三蔵の一行は、幸いにもこの水豆を見つけ、 のどの渇きに苦しむこともなく涸れ谷を通ることができたのだった。 この水豆がのちに、あの甘い葡萄となったといわれる。ここから、 「吐魯番の葡萄、哈密の瓜」ということばが出たのである。